ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~
 泣き疲れた聖美ちゃんは、ベットに横たわり、やがてすうすう寝息を立て始めた。残っていた涙が、スウーと頬を伝う。私はぬぐうことができないと分かっていたが、そうしたい思いに駆られた。
 涙に触れようとすると、急に目の前が真っ白になった。
 気がつくと、そこは私の知らない部屋だった。汚く、狭い部屋に、私は隅に座っていた。
部屋の真ん中で、タバコを吸う若い女性が座っていた。片手には携帯電話を持って。
 携帯電話に何度も何度も、壊れるくらいに電話をかけている様子がうかがえる。
次は、その女性が何度も何度も壊れるくらい、狂いながら私をたたいていた。恐ろしい顔だった。けれども、そんな顔をしていながら目には涙が流れていた。
(痛い、痛い)
(やめて、やめて)頬はたたかれて、赤く腫れ上がり、体の節々は悲鳴を上げた。
「お母さん、ごめんなさい。ごめんなさい」子どもの弱々しい声が聞こえた。
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