ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~
 でも、私は知ってしまった。彼女が泣く理由を、なぜ幽霊になってもあそこに留まっているのかを。
残酷だと思う。でも私はあえて聞く。
 「聖美ちゃん、お母さんからたたかれたり、ひどいこといっぱいされたことある?」
 彼女の目に不安な悲しい光が宿った。小さく、こっくりうなずく。そして、語りだす。
「でもね。お母さん、いつも抱きしめてごめんねと言ってくれるんだ」体はプルプル震えていた。
 口から出てきたのは、母親を非難する言葉ではなく、かばう言葉だった。
「誕生日になると、ケーキを買ってきておめでとうって言ってくれるの」
「聖美が、悪い子宝、お母さんは怒るんだ。だから嫌われているんだ」
「だからあの日も迎えに来てくれなかったんだ」
 痛々しそうに、唇をかみ締めた。
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