ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~

⑥ある晴れた休日

 深い緑の山に囲まれたその場所は、空気が浄化され、心と体を清くしてそうだ。
水の入った桶と、花束を持ち、黒々とした石が整然と立ち並び、狭い通り道を歩いた。
 都心から離れたところに、墓地はあった。
自分以外、他は誰も来ていないようだ。女は、足取りを重たく、歩いていた。
 (ここまでくるのに、どれほどの年月がかかったことか)
 娘の聖美が亡くなり、10年は経った。あの雨の日。聖美が家を飛び出したのが、最期の姿となった。
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