ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~
 先生と触れたことは、片手で数えるくらいしかない。
荷物を持ったとき、階段から落ちそうになって手を掴まれたとき、髪をそっと撫でてくれたとき。
 (私は、先生の生徒だから)
分かっていた。先生は、わたしのことをなんとも思っていないことを。私だけが、一方的に先生を愛していることを。
 分かっていることなのに、考えるだけで、胸が苦しく悲しくなった。
 だから、せめて夢の中では、好きにさせてほしい。先生、私を抱きしめて、お願い。
先生は、私を抱きしめてくれた。内側から、熱いものがこみ上げてくる。
先生の、ごつごつした体。荒々しい息遣いが、耳元に聞こえた。
 ジジジジジジ。遠くで、蝉の鳴く声が、聞こえてきた。
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