ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~
 新鮮な空気を吸いたくなり、喧騒した部室から抜け出す。ほんのり赤く染まった空を、ぼんやりと見つめた。
 彼女が、静かに隣に立っていた。彼女の黒い瞳に、夕焼けが映っている。赤く照らされた彼女は、風景の一部と化していた。
 「普段から、ちゃんと着ていれば直前で慌てることもないのにね」
彼女は少し、疲れた表情を見せた。
 ぼくなら、嫌だなと、心の奥底で答える。涼しい風が、彼女とぼくの縮まることのない間を、優しく通り過ぎていった。
空は、さらに切なく飴色になっていく。
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