【短】笑顔のままで
電話を切った今も、君はキョロキョロと辺りを見回している。
しばらくすると、そんな君を隠すようにゆっくりと電車がホームに滑り込んできた。
相当酔ってるんだな、オレ…。
胸はドクドクと激しく動き、のどの奥は熱かった。
クラクラする頭があまりにも重たく感じて、折り曲げていた膝に額をくっつけた。
涙がこぼれ落ちそうになった。
背後で電車が発車する音がして、俺は目頭を指で押さえながら何度か鼻をすすったあと、ゆっくりと振り返り君の姿を探した。
吐き出された人たちの中から君を見つけ出すのは、とても簡単なことだった。
人の波に逆らうようにして立っていたから。
俺の知らない男と。
俺の知らない男の腕の中に、君がいたから。