【短】笑顔のままで

『えっ?なんで…っ?』

驚いた君の声に反応した俺は、柱の陰に隠した身体をさらに小さく丸めた。

「あ…。声が、……声に元気がないから」

今はただ、自分の存在を隠すことしかできなかった。

元気出せよ、と言って肩を叩いてやれたら、どんなにかいいだろう。

久しぶりだね、と君の前に姿を現したなら、何かが変わっていたのかもしれない。


だけど、そんな度胸も資格もない俺は、ただ君の視界に入り込まないように、できるだけ身体を小さくするんだ。


『ちょっと、…ケンカしちゃっただけ。あんたに関係ない…』

だんだんと小さくなって消えてしまいそうな声の持ち主に、

「まぁ、ケンカなんて、よくあることさ」

そんなありきたりな言葉を贈る。

< 9 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop