復讐ストーカーゲーム1
 酒屋の小型トラックがマンションの前を通過する。チラリとひろみを見ると、幸せ絶頂の輝かしい笑顔を浮かべ、手を振っていた。


「ねぇ私、駐車が出来る場所を念のために探してくるから、貴方はここで下りて見張っててよ」


「良い案ですね。直ぐに戻ってきてくださいよ、いけそうだったら住所も調べておきます」


「OK! それじゃ行ってくるわね」


車から下り、左右を見渡した。通行人はあまりいない。年老いたお婆さんが、歩いているくらいだった。


――静かだな……この時間帯、セレブ族はお出掛けか。


曲がり角からマンション前を遠目に見る。本棚を運ぶ引越し屋2名と、紅葉とひろみがまるで新婚夫婦のように楽しそうに会話をしている。


 ――引越し屋は2名だけか。奴らがエレベーターに乗り込んだ後、下りた階数でもチェックしておくか……。


帽子を深く被り、表情に陰りをつける。両手はポケットに突っ込み、さりげなくマンション前へ近づく。


引越し屋の車の横を通りすぎようとしたところだった。ふと窓を見ると、バインダーが置いてある。挟まれている用紙には、ひろみの住所が書いてあった。


――下りた階数を確かめるより、確実じゃん! ラッキー! 頭にインプットして張飛に報告だ!


忘れないように、繰り返し脳裏に浮かべ、歩きながら張飛にメールを作り上げる。覚えたての住所と報告しろというメールだ。


十字路に差し掛かり、その角で立ち止まった。


――上手く行くといいな。

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