されど、時計は右回り
「黒だけの空間は恐怖。白だけの空間は不安。どっちも人の住む空間じゃない。気が、おかしくなりそうだ」
元々の気狂いが白々しくも口にしてみる。きっと傍にいるであろう、“お前”に向けて。
独り言で済まされなかったのは、黒い世界に星がちらついたから。どこまでも“お前”は、私に優しいんだなと、苦笑する。
「もう遅い。おかしくなりすぎて、壊れた。だからいっそ、殺してくれないか」
傷だらけの左腕をかきむしる。気が触れた代表格たる傷跡は首にもつけようかと思っていたのに。
「君が君を殺せないならば、私もまた、君を殺せないよ」
やっと聞こえた“お前”の声。私の斜め上、空中の何かに腰かける奴は、相変わらずの笑顔で私を見る。