恭&綾~【恭&綾シリーズ】1
恭司が歌い終えると、綾は拍手をしながら微笑んでいた。
その表情は穏やかに見える。恭司はマイクを置いた。
「まず、嫌なことから聞こうかな? なんで、家に居たくなかったの? まぁ、無理に言わなくてもいいけれど」
穏やかだった表情が少し曇った気がしたが、綾は小さく頷いて恭司を見た。
「――聞こえてきちゃったの。お義母さんと旦那の会話がね、聞こえてきちゃったのよ」
「――どんな会話?」
「孫の顔、見せてくれるまでは死にたくないって。早く、嫁を取り替えたらって」
「――」
「そんな簡単には取り替えられないよ、って答えてた」
苦笑いしながら、綾は俯いた。
「――それで、出てきたの?」
「取り替えられる理由にはちょうどいいのよ。必要とされてないのなら、居場所はないもの」
自分に言い聞かせるように綾が言っている姿を見て、恭司は何と答えていいかわからない。