恭&綾~【恭&綾シリーズ】1

「――わたしの存在価値ってなんだろうって思ったの。誰かに必要とされたいって思ったの。でも、誰がわたしを必要にしているかって考えても、誰も浮かんでこなかった。それなら、今わたしが必要としている人は? ――そう考えたの」

「――うん」

「話を聞いてくれる人が欲しかった。だから、比較的仲が良かった友だちを訪ねてみた。でも――」

「聞いてくれなかったの?」


綾は小さく首を横に振った。


「聞いてくれたけれど、何も言えないって。逃げていちゃだめだって言われた」

「そっか」

「わかってはいるのだけれど、子供を産めなかった負い目があるの。だから、わたしは彼には何も言えないよ」


 綾は瞼を閉じ、じっと何かをから得るように大きく息を吸っていた。


< 276 / 286 >

この作品をシェア

pagetop