恭&綾~【恭&綾シリーズ】1
「――オレ、未成年だし、結婚とかってさ、ピンとこないけれど――うちの両親がさ、すごいんだよね」
「すごいって?」
「うちってさ、親父が30代で会社興してさ、栃木県内中心に音楽機材や撮影機材のレンタルみたいなのをしているのだけど、だんだんと、手広くしていって、親父は家に帰る暇もなくて。母さんはさ、親父が留守しがちだからって怒るでもなく、逆にすげー応援してて。しばらくしたら、自分でさ、手作りのお菓子を売るようになって。それが小さい頃からの夢だったからって、活き活きして作ってたなぁ。美人じゃないんだけれど、親父は母さんにぞっこんでさ、たまに帰ってくると、子供のオレが照れちゃうほど仲良かったんだ。呆れながらもさ、なんかいいよなって、思っていたかもなぁ」
何を言えば綾を元気付けられるのか分からなくて、恭司は一番身近な両親の話をするのが精一杯だった。
とにかく話すことで少しでも笑顔になってもらえたらと、話し続けてしまった。
そんな思いが綾に伝わったのか、彼女はいつの間にか微笑んでいる。
「素敵ね。恭って、どうしてこんなに優しいのかって思っていたけれど、その理由がわかったような気がする」
「こないだ、先輩の話、したでしょ? 先輩のトコとか、今の綾の話を聞いてて、結婚するってコト、思っていたより、複雑なんだなって」
「悪い例を見せているね、わたし」
「――で、今のオレの心境も複雑。綾には笑っていて欲しいなって思うけれど、こうやって、オレを呼んでくれたことがめちゃ嬉しいっていうのが本音」
「――」