あの時も、これからも
「待っていて欲しい」

凛とした声音が響いてしるふはふと顔を上げる

今にも泣き出しそうな顔をしている自信がある

だって、だって

海斗が居なくなるなんて考えたこともなかったから

否、考えるのが怖くて考えないようにしていたから

だから…

そっと海斗がしるふの頬を撫でる

「必ず一年で帰ってくる。絶対に。だから、待っていて欲しい」

強い響きのあるその声に、しるふはそっと目を閉じる

わかっている

海斗は決して自分をないがしろになんてしない

待っていて欲しいと海斗が言うのなら、必ず一年で帰ってくるというのなら

それは事実

海斗は本当に一年で帰ってくるだろう

そして待っていて欲しいというのだからきっとその先がきちんとあるのだ

知っている

海斗の強さも決してうわべだけではないその言葉も

もし、そんなのいやだってわめき散らせたらどんなに楽だろう

行かないでって、行くなら連れてってって言えたらどんなに楽なことか

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