あの時も、これからも
「大丈夫ですよ、今のところ」

たぶん、と心の中で付け加える

「そうは見えないけどね。…黒崎君、ドイツにいるんですってね」

「はい、四月から一年間」

「あいっかわらずね、あの男も。それを性懲りもなく待つあなたもね」

理解できないわ、とつぶやく芳川に苦笑を向ける

「黒崎君が心配してたわよ」

はあ、と息をついてから紡がれた言葉にしるふは目を見開く

「誤解しないで。あの男が他の女を見ることなんて天地がひっくり返ってもありはしないわ。…ただ、この間知り合いとドイツの大学病院に行くことがあって、噂では聞いてたから連絡してみたのよ。そしたら本当にいるんだもの。しかも一人で、びっくりね」

「……元気、でした?」

「ええ、いたって。それよりもあなたから最近電話が減ってるって心配してたわ。特に用がなくてもかけてくるあいつが電話してこないってことはきっと何かあったんだろうって」

そう思うなら自分からしなさいよね

明らかに動きを止めるしるふをよそに芳川は憤然と言い放つ

「で、仕方ないから日本に帰ってくるついでに寄ってあげたのよ」

ま、あなた相当な顔してるから黒崎君の予感も無下にできないわね

そんなにひどい顔してるだろうか

海斗の名前が出てきてどうようしてるのは認めるけれど

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