あの時も、これからも
「ついでにこれ」

そういってカバンから小さな広い封筒を取り出して、机の上を滑らす

「なんですか、これ」

受け取りながらしるふは芳川を見る

「航空チケットよ。ドイツ行のね。どうせ意地っ張りあなたのことだもの、このまま一年間待つつもりでしょ?別にそれで大丈夫って言うならいいけど、その顔で言われても説得力に欠けるわ」

芳川を見つめるしるふの顔が泣きそうにゆがむ

ぎゅっと封筒を持つ手に力が入る

「ちょっと、ここで泣かないでよね。黒崎君にあなたを泣かせたなんて知れたら睨まれるだけじゃすまないわよ」

それだけは勘弁、と芳川は首を振る

ドイツ行

そっと封筒を見つめながら芳川の言葉を反芻する

海斗に、逢える

「あ、そうそう。神宮寺医局長に了解はとってあるから。遠慮なんてしないのよ?それ使わなかったら私が黒崎君に報告しておくわ、あなたの大切なお姫様は今にも泣きそうな顔して頑張ってたわよって」

そしたら飛んでくるのは黒崎君でしょうね

きっと留学なんかよりも本当に大切なものはしるふだから

「ありがとうございます」

封筒に視線を落としたまま、海斗には敵わないと苦笑する



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