あの時も、これからも
「……海斗」

つぶやいた声は、静けさの中に消えていく

ぎゅっと唇を引き結んだしるふは、写真を手に取ったままソファの上に置かれた鞄を振り返る

あの中には今日芳川に貰った航空チケットが入っている

あれを使えば海斗のところへ行ける

でも仕事は忙しいし、ただでさえ海斗がいない中頑張っている医局を尻目に一人だけ海斗に会いに行くなんてできない

しかも待つと決めたのに

逢いに行きたい

その思いは強い

知らずに写真を持つ手に力が籠る

と、カバンの中で携帯が振動している音が聞こえた

はたと写真を置いて携帯を手にする

「…もしもし?雪ねー?」

相手は姉の紗雪

「どうしたの」

「どうしたのじゃないわよ。最近めっきりこっち来ないから元気かなと思って。今日店休みだからさ、来ないかなと思って」

速人に迎えに行かせるわよ

「ああ…、そうだね。行こうかな」

「うん、今、どこにいるの」

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