あの時も、これからも
「今度はずっとそばにいるために、一時別れるっか」

ふと海斗との会話を思い出していたしるふは、今がそれだな、と一人納得する

決して不安にならない一年ではない

けれど、その先にある未来を掴むために

もう二度と手を離さないために

たった一瞬別れる

海斗がその会話を覚えていてこのオルゴールを送って来たのか

それともただ単にしるふが好きな曲だからなのかはわからない

それでもその小さな気遣いが、うれしい

「ホント、敵わないな」

苦笑交じりにつぶやいてしるふはカバンから携帯を取り出す

秘密のボックスに入っている名前はただ一人

そっと発信ボタンを押し、静かに繰り返されるコール音を聞く

突如として途切れるコール音の後に響くのは、愛しい声

「もしもし」

「やほ、海斗。今大丈夫?」

そっけない声にだってうれしさを覚えられるなら、あと数か月くらい待っていられる

「ああ。どうした?」

すでに家にいるのだろうか、背後からお湯の沸く音がする

「ああ、どうしたじゃないよ。今日クリスマスだよ?」
< 172 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop