あの時も、これからも
それは、3月の暮れ

あの海斗がドイツに行くとしるふに言った日


「どしてさ、待っていて欲しいなの?一緒に行ってほしいじゃなくて」

責めるわけでもなく静かな口調で話すしるふの瞳を海斗は真っ直ぐに見つめる

心なしか海斗が握る手が力を増す

「ドイツに行くのは俺の勝手だ。それにしるふを巻き込むつもりはないし、しるふから医者を取り上げるつもりもない」

医者として働く彼女をだれよりもしっかり見てきたから

しるふがしたいと思うことをし続けてほしい

元指導医として彼氏としてしるふから医者という居場所を取り上げたくはない

それに、と海斗は一度言葉を切る

「日本で掴みたい未来があるんだ」

「未来?」

「そ、そのためにしるふには待っていて欲しい」

そういって海斗は優しい光を瞳に宿す

「俺は、しるふがいる場所に必ず帰ってくるから」

決してドイツで満足しないように、日本に立ち返るために

ずっと前に決めたこと

例えどうしても海斗に手術してほしい患者がいるといわれてアメリカに飛ぼうとも必ずしるふのいるところに舞い戻る





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