あの時も、これからも
しるふのいるところが海斗の居場所だから

ドイツに単身で行くのもきっと海斗の我がままだ

しるふに不安を与えて、一年も待っていてくれなんて都合がいいのはわかっている

けれどしるふを連れて行ったらそこが自分の居場所になってしまう

しるふがいるのならいいと思ってしまう

でもつかみたい未来は、望む未来は日本でなければ実現できない

それに医者として腕を上げることは望んでも、患者を診れない、名声や地位のためだけに生きる医者になることを望まないしるふを黒崎病院以外の場所に連れて行くつもりはない

しるふが真っ白でいることが海斗の望みだ

だからただついてきてほしいという理由でしるふを外に出すことはない

「…海斗」

静かな瞳でつぶやいたしるふは、仕方ないな、というように苦笑する

もし、海斗がもっと別の理由でしるふを置いてくなら、しるふだってついて行くって、連れてってって言えたのに

なのに、この男はそれを許してはくれないのだ

しるふのいる場所に帰ってくるから

なんて言われたら、待つしかないじゃないか

「わかった。待ってるよ、海斗を」

優しい瞳をするしるふを海斗はそっと、でも力強く抱きしめる

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