あの時も、これからも
「しるふ」

凛とした声に名を呼ばれた

幾度となく私を支えてくれた声

そしてこれからもずっとともにある声


椅子に腰かけていたしるふは、ゆっくりと顔を上げる

「海斗」

ふと微笑みを宿しながら愛しい名を呼ぶ

せっかくのドレスが崩れないように細心の注意を払って立ち上がる

ふわりとまろやかな香りが香ってさらりと布の擦れる音がする

相変わらず少し顔を上げないと海斗の顔はまともに見れない

漆黒の瞳は、いつになく穏やかな光をたたえていた

「背が高って得だね」

それだけでかっこよく見えちゃうもん

少し気恥ずかしくなって視線を外し、海斗の灰色がかったタキシードをくいくいと引っ張る

ふと海斗が小さく笑った気配がした

「海斗に見せるの初めてだったよね。どう?綺麗でしょ」

海斗に全体が見えるように一歩下がって、ドレスの裾を軽く持ち上げる

知り合いのデザイナーに頼んで作ってもらった世界に一つだけのドレス

デザインにはしるふの意向も取り入れられている

姉達には出来上がったときにお披露目したけれど、海斗には本番まで見せないと決めていた
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