あの時も、これからも
楽しみは最後に取っておかなきゃね

「ああ、綺麗だよ」

「でしょ」

細まった優しい瞳に、小さく首をかしげながらしるふも微笑む

と、同時に二人でくすりと笑う

たぶん、これからだって大変なことはたくさんある

付き合い始めたあの時には想像もしなかったことがたくさん起こる

それでもきっと、海斗となら乗り越えていける

そう、思うんだ

しるふが一歩あけた距離を海斗が詰める

そしてとん、と優しく額を合わせる

「待ってるから」

だから、ゆっくり歩いて来い

まるで小さな子供に諭すような声音に

「うん」

小さな、小さな声で答える

その言葉を、海斗の隠された想いをかみしめながら

しるふの答えを聞くと、海斗はするりと肩にかけていた手を離し、踵を返す

一年前、空港で少しの寂しさと切なさとともに見送った広い背中は、今、その言葉通りここにある

それだけでこんなにも満たされるなら、この先だってあの背にすべてを預けて、そして支えていける

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