あの時も、これからも
「ねえ、海斗」

肩にもたれていたしるふが顔を少しだけ上げて視線を合わせてくる

「いいこと教えてあげよっか」

聞きたい?

そうやって無邪気な瞳を向けてくるところは、たとえ母親になっても変わらない

いつまでも透き通ったブラウンの瞳

それに何度助けられたことか

しばしの沈黙

二人でお互いに相手の言葉を待っていると

両親の間に流れる洗練された、親密な雰囲気を感じ取ったのか

祈が抗議とも取れる声を上げ、むずがるように足をばたつかせる

はたと二人で視線をやると幼い瞳には、明らかに不機嫌な色が浮かんでいる

「出たよ、祈の焼きもち妬き」

肩を揺らして笑いながらそっと祈の小さな頭に手を伸ばす

これからの敵は社長令嬢ではなく、愛娘になりそうだ

これは勝ち目がないかもしれない

海斗に抱き直されて少し機嫌を直した祈を苦笑とともに見つめる

「で?何」

ああ、でもやっぱりこの瞳は自分だけのものかもしれない

向けられた漆黒の瞳に、そっと微笑む



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