あの時も、これからも
昼休憩中、ご飯を食べ終えたしるふはロッカー室で一人携帯をいじっていた

タッチパネルの上を指が滑らかに滑り、目的の画面を表示する

そこに映し出された名前と電話番号に少し躊躇するようなそぶりを見せたしるふは、けれど意を決したように発信ボタンを押す

響くのはコール音

音が重ねられるたびに言いようのない寂しさにも似た感情が湧いてくる

「しるふ?」

いつ発信をやめようか、と考えていたしるふの耳に聞きたかった声がかかる

「もしもし?海斗?」

海斗にかけているのだから海斗が出るのは当たり前だし、名を呼ぶ声は一か月前と変わらないのにどうしても確認の意を込めて海斗の名を呼んでしまう

「どうした」

ひとまず海斗はしるふが電話するとそう聞く

落ち着いた優しい声音にしるふはふと視線を落とす

「ん、ちょっとね。何してるかなと思って」

本当は声が聴きたかった

それだけの理由だ

その声を聞けば海斗の心がどこにあるのかよくわかるから

例えそばにいなくても心はしるふのそばにあると実感できる

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