あの時も、これからも
「海斗が突然ドイツに行くなんて言い出すからこうなるんだよ」

冗談めかしにいうしるふの口調に責めはない

対する海斗も

「あー、はいはい。そうですね」

と少々面倒くさそうにつぶやく

たとえ何と言われようとも海斗はドイツに行っただろう

そういう男だ

それが自分の決めた道ならば突き進む

そしてしるふも何と言われようとも海斗が待っていて欲しいというのなら待つのだ

海斗が医者としての自分も大切に想っていることを知っているから

「最近さ、海斗がメールをちゃんと返してくれるから逆に心配になるんだけど」

久々にたわいのない話ができて、そして海斗の声音が変わらぬことにうれしさを覚える

「は?ちゃんとメール返せって言ったのどこの誰だよ」

何を言う、と海斗が怪訝そうな声で言う

「そうなんだけど、いざメールがちゃんと返ってくるとさ今までそんなことなかったから何かあったのかなって逆に勘ぐっちゃうんだよね」

ほら、よく言うじゃない。浮気してる旦那さんて奥さんに後ろめたいから急に花を買ってきたり優しくしたりするって

「一般常識に俺を当てはめないでくれるとうれしいんだが」

「わかってる、わかってる」

くすくす笑うしるふの様子に海斗が電話の向こうで顔をしかめたのが分かる

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