あの時も、これからも
ふふふと笑うしるふの声に、相変わらずだと少し安心した海斗は小さくため息をつく

「そうだな、これだけ言われればいやでも思い出すよ」

「でしょう?やった!作戦勝ちだね!」

作戦なんて立ててないくせに…

しるふの声に強がりや無理のないことを感じ取った海斗は電話の向こうで一人微笑む

どんなに言い寄られようともしるふを悲しませるような真似できるはずがないのに

しるふの涙を一番嫌う海斗がそんなことできるはずがないのだ

とその前にそれでいてしるふと平然と付き合えるほど自分は器用じゃないが

「しるふ、お前そろそろ戻らなくていいのか?」

腕時計に目をやり時差を計算した海斗がふと気が付いたようにしるふに言う

「ん?…おわ!!やっば!患者さんのご家族が来るんだった!!」

海斗に指摘されて自身も腕時計に目をやり、その短針と長針の位置にしるふは慌てる

「じゃね、海斗。浮気、しないでね」

「はいはい。したくてもできない性分だから安心しろよ」

海斗の言葉にしるふはふと微笑み、そだね、と小さく返す

「また電話するね」

「ああ」

そういって電話は切れる

少しだけ感じていた寂しさがまぎれてしるふは電話を見つめながら微笑む

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