あの時も、これからも
しっかりと椅子に腰を下ろしながらも不機嫌そうににらんでくるしるふに櫻井は、からからと笑う

「いいんだよ。予定より早く終わったし。それにあの部署で俺に口出しできる奴なんていねーから」

口出しされても気にしない、の間違いじゃないだろうか

いや、櫻井さんのことだ、きっと本当に皇帝のように君臨しているのかもしれない

この人ならありうる

そう考えていると、水を運んできた店員に、櫻井が「ホットコーヒー二つ」とメニューを一度も見ていないのに頼む

「ちょっと!こんな暑いのにホットコーヒーって!しかも私何も言ってない」

いくら店内がひんやりしているからってこの真夏にホットコーヒーはないだろう

それにしるふはあまりコーヒーが好きじゃない

だぶん紅茶好きな海斗の影響と元来の甘党のせいで

「気にすんなよ、ここはアイスよりホット。しかもコーヒーが一番うまいんだから」

「もー、そういうところホント変わんない。少しは成長してまるくなったかと思ってたのに」

前にもこういうやりとりをしたような気がしながら、しるふはお手拭で手をふく

あの時は連れてってもらったレストランで櫻井が勝手に注文を決めてしまったのだ

美味しいからいいんだよ、といった櫻井に少々の不満を抱きながらも本当にその料理が惜しかったから何も言えなくなってしまった過去がある

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