あの時も、これからも
基本コーヒーなんて医局でしか飲まないしるふは、その香りのよさにふと息を吸い込む

これは香りだけでも十分楽しめるかも知れない

そう思ってカップも持って香りを楽しんでいると

「な?言ったろ?ここはホットだって」

とにやりと笑いながらコーヒーを口に含む櫻井が目に入る

「そうですねー。櫻井さん、いい加減その俺様な性格直さないと彼女できませんよ?」

「いらねーよ、彼女なんて。メールを返してくれない、電話をしてくれないだとほざいてビービ―泣くんだ。面倒くさいことこの上ない」

ことん、と小さな音を立ててコーヒーカップがテーブルの上に置かれる

「少しは彼女に比重を置いたらどうですか。毎日しろなんて言いませんけど、やっぱりたまには電話だってしたいし、メールの返事が欲しいもんですよ」

こいつは多分海斗以上に女心を理解していない

好きだから付き合うというより、一緒にいて面倒じゃないから、楽だから付き合う、というのが櫻井だろう

「本当に昔より物言うようになったな。それのせいか?」

ふっと笑いながら櫻井が顎をしゃくる

初め、「それ」が何を指しているかわからなかったしるふは、その視線をたどってああ、と納得する

彼の視線の先にあるのは、しるふの右手薬指にはまるペアリングだ



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