あの時も、これからも
輸液と輸血はすでに全開だ

ここで心拍が戻らなかったら開胸も開腹も出来ない

だから戻って

そう半ば祈るような気持ちで心臓マッサージを続ける

「…立花先生、3分、経ちました」

静かに看護師が告げる

「…っ」

わかっている

もう3分以上たっているはずだ

でも、ここでこの手を止めたら彼女の死を認めることになってしまう

彼女の命をあきらめることになってしまう

ぎりっと唇をかんだしるふに処置室に入ってきた看護師の声がかかる

「河木さんのご家族がお見えです」

それが合図だったようにしるふはそっと桜の胸から手を下ろす

ぎゅっと握りしめたこぶしは感覚が無くなっている

「お呼びして」

せめて温かいうちに逢わせてあげたい

ただ助けたいからという思いで突き進んではいけないのだと海斗に教わった

「立花」

そう強い声とともに抑えられた腕に感覚がよみがえる

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