あの時も、これからも
しるふは、その患者に全力を尽くしたんだろう?だったら十分頑張ったんじゃないのか

何時だったかに優しいぬくもりと共に告げられた言葉が反芻する

お前のせいじゃない、そういわれているようで

「…っ」

突然思い出した言葉とぬくもりに思わず息をつく

とん、と抱えた膝に額をつける

さらさらと落ちる髪がふわりと香る

海斗が好きだと言ってくれたカモミールの香り

海斗…

そっと声には出さずにその名を紡ぐ

右手にはまったリングの感触を確かめるように左手で握る

抱える想いはただ一つ

「……逢いたい」

きっと今電話をしたら声で海斗にはわかってしまうから

きっと泣いてしまって海斗にいらない心配をかけるから

だからその手に携帯は握らないけれど

でも、逢いたい

本当は電話じゃなくて直に逢いたい

一度だけ名を呼んで、抱きしめてくれれば

優しくなでてくれれば

それだけで十分なのに



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