もうすぐ夏なので怪談話でもおひとつ
 後で姉から聞いた話では、わたしは水底で体育座りの格好で沈んでいたそうです。

 そして、周囲に大勢の大人が居たのに、誰も気付いていなかったと。

 異様な絵で、ゾッとしたそうです。

 飛び込んで引き揚げようとしたけれど、岩のように重かったと言っていました。

 すぐに助けを呼んで、引き揚げられたそうですが、その時にわたしは生死の境をさまよっていました。


 溺れるうちに意識が薄れ、走馬灯のようなものを見て、わたしはやがて河原に立っている事に気付きました。

 薄暗い場所で、見渡す限りが砂利の河原です。

 小石のほかには何もありません。

 川のせせらぎが遠くから聞こえてきます。

 河原だとわたしは知っているのですね、不思議なことに。

 けれど、川はどこにもない。

 せせらぎの音が聞こえる方向へ歩き出そうとした瞬間でした。

「行くな! まだ早い!」

 誰かの声が聞こえたんです。

 わたしはその声に振り返り、そして目が醒めました。



 目を開けると真っ白い天井が見えました。

 て感じで、病院のベッドで目覚めたのでした。
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