エリートなあなたとの密約
憩いが繋ぐ、自由闊達
翌日からは平常運転、ではなく通常営業に舞い戻った。
ひとり昇りかけの朝日を浴びてオフィス街を歩くと、気持ちがシャキッと引き締まる。
「おはよ」と、背後から肩を叩かれて振り返った。
「あ、おはようございます。
先週は名古屋までありがとうございました」
そう言いながら、ペコリと頭を小さく下げた相手は上司の松岡さんだ。
「こちらこそ。で、修ちゃんは行っちゃった?」
無造作ヘアにイエローのネクタイでアクセントをきかせたスーツ姿は、一見するとお洒落な佇まいの社会人である。
「ええ、無事に」
「んー新婚でお疲れだろうにねぇ。あれ?精力回復?」
「……ホント、朝から元気ですね」
「待った、“アト”ついてる」
「え!?」と、動揺しながらキョロキョロ全身を確認してしまう。
「うっそー」
そこでニヤリ、とお決まりのキラー・スマイルを見せる松岡さんをつい睨む。
「折角、名古屋で豆を調達してきたのに!今日はコーヒーなしです!」
「えー、会社で真帆ちゃんとのコーヒータイム以外にあと何を楽しめとぉ?」
「知りません!」
にべもなく返してそっぽを向くと、ふたり並んでSJ社ビル内へと向かう。
ちなみに修平は、朝5時前に秘書を伴って短期で本社出張に向かった。
今回は本社のあるアメリカ・シカゴで、大神さんをはじめとする試作部の面々と打合わせをするのだとか。
ラフな機内スタイルの彼を玄関先で見送った私は、そのままラッシュ前の電車に乗り込んだというわけ。