エリートなあなたとの密約


実は私たちの結婚に際し、社内でちょっとした問題も起きていた。



私たちの勤めるSJ社では、同じ部署で夫婦が働くことはない。職場結婚をした場合、どちらかが異動するのが通例であり、大抵は女性が職場を移っている。


ただ、異動自体が滅多にない試作部での社内結婚は私たちが初めてのケースらしい。


人事部からは他部署のように慣例に倣って、結婚を知らせた時点で私に他部署への異動を打診されていた。


とはいえ、役員の修平が私情ともいえるこの件に口を挟むことは出来かねる。万が一にでも私を守れば、両者に不都合だったから。


そのため私自身が人事部に抵抗を見せたものの、やはり色よい返事はなくて。諦めたくはないけれど仕方のないことか、と諦めの境地に入っていたのに。


この窮地を救ってくれたのは、他ならぬ部署メンバーが出してくれた嘆願だった。


常に開発に追われる現状で係長が試作部から抜ければ、いったい誰が穴埋め出来るというのかと。実力勝負で進めてきたこれまでの試作部の概念を覆す、明らかな不当人事ではないかと。


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