エリートなあなたとの密約
そんな身に余る言葉の数々に触れた私は、思わずその場で泣いてしまった。
不出来な係長にも関わらず、必要としてくれていたことに感謝してもしきれなくて。
すると、そこで試作部出身である伊藤相談役のひと言が、不利な状況だった風向きを一気に変えてしまった。
修平が国内では役員室で業務をしながら海外出張をこなす今、私たちが夫婦になろうが業務には何ら支障は出ないだろうと仰って下さったのだ。
この発言の裏には“溺愛する吉川さんを不当に扱う職場でこの男が働き続けると思うのか?”という、頭の回る伊藤相談役の脅しがほんのり含んでいたはずだと、後に修平から聞かされたけれど……。
とにかく最終的に不問と判断されたことで、以前と変わらぬ今があるのだ。この経緯を踏まえて、公私混同は避けねばならない。
たくさんの感謝とともに、幸せなプレッシャーをひしひしと感じている。弱音を吐くより、今はもっともっと頑張らなければいけないのだと。
その間に、松岡さんの声のトーンは淡々としたものとなった。ちなみに彼らは、重要な話は聞き取られないように様々な言語を使い分けて話すのが常である。