エリートなあなたとの密約
彼の優しさに触れたお陰で小さな震えは止まり、どうにか三杯の御神酒を飲み終えた。
結婚指輪はふたりでハリー・ウィンストン社の品で、丸みのある飽きのこないシンプルなものだ。
職務上リングを外すこともあるけれど、その時のために細いシルバーのネックレスも用意した。
それを互いの薬指へと填め合えば、じわりじわりと幸福感で満たされていく。
様式に倣った式次第を終えて退出する最中、通路を歩く私はチラリと周囲を見渡した。
格式高い社(やしろ)と自然さを誇る緑の景色の尊さに自然と背筋が伸び、不思議なパワーが漲っていく。
正面に視線を戻すと声に出すことなく「ありがとう」と告げ、目の前の広い背中を見つめた。
私の白無垢と同時に誂えて頂いた、黒岩家の家紋入りの紋付き袴姿で歩くのは最愛の人、修平である。
ここ名古屋は彼の出身地であると同時に、私たちにとってもたくさんの思い出が詰まったところ。
彼の大切なこの場所で新たなスタートを切ることが出来る今、この上ない幸せに包まれているの……。
「どうした?」
不意に彼が後ろの私の方へと振り返り、穏やかな声でそう尋ねてきた。
「何でもないよ?」
「あやしい」
フッ、と目を細めて笑うその顔は、たとえ年月が経っても昔と何も変わらない。