エリートなあなたとの密約


日々分刻みのスケジュールに加え、その他の業務も同時進行でこなす彼の日々は過酷なもの。


けれど、それを億尾にも出さず、隙間時間には試作部をはじめ社内にもきちんと顔を出し、部下や職場環境への配慮も決して忘れない。


勤務中の態度は甘くないが、その厳しさがあるからこそ試作部は成り立っていると言っても過言ではないだろう。


部署はおろか、社内でも彼の真摯な姿勢に羨望の眼差しを向ける者も多い。


それはきっと、最年少で役員に就任したエリートながらも気取らない人柄もまた一因しているのだと私は思う……。


「今日は何時ごろになりそう?」

「んー、ちょっと分からないな。出張までに片づけたい件もあるしね」

「そっか」

「真帆は?」

「私はいつも通りだよ」と返せば、「ギリギリってことだろ?」と言われて苦笑い。


短納期の品や設計段階でトラブルが起きた案件をいくつか抱えた状況で順調とは言えず、部内の退社は午前様ばかり。もちろん、統括の彼は知っているのだけれど。


とはいえ、知り得る限りでワーカーホリック・ナンバー1の修平に休みは存在しない。


このところの激務ぶりには、妻であり部下である私も流石に心配している。


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