エリートなあなたとの密約
ちなみに今日は木曜日。土曜日には本社のあるシカゴに飛ぶ予定のため、日頃の状態を鑑みれば案件が山積みのはず。
「そうそう、大体トランクに詰めてみたから時間のあるときに確認してみてね」
「ありがとう、助かる」
「そう言ってくれて、ありがと」
当たり前のように言葉にしてくれる彼にこちらの方が感謝するばかり。たとえ当たり前のことでも、たったひと言に救われるのが人の性。
ちなみに私も出張はザラなので、パッキング作業はもうお手のもの。それに同棲時代から、彼の出張時の必要品は大まかに把握していた。
なので手伝うことは何度かあったけれど、結婚した今は私が主に準備するようになってその変化が嬉しかったりもする。
「――ここがオフィスじゃなかったらキスするんだけどな」
「ふふっ」
修平と顔を見合えば、言葉とは裏腹な表情に笑ってしまう。そんな気遣いを忘れない優しい彼に触れたいのは、私だって同じ。
ひとりで待つ寂しさだけは、いつまで経っても慣れたくないから……。
激務の日々では睡眠も乏しいのは承知している。しかし、大勢の人をまとめる彼にとってはこれが当たり前のこと。それが社の機密情報を扱う彼に対しての、目に見えない優しさだと考えている。
だから“大丈夫?”とは軽々しく聞けないし、頑張っている姿を目の当たりにしているからこそ口にしない。
「で、ここへ来たのは話があったんだ」