エリートなあなたとの密約
「――あ、もう時間か。明日6時に地下駐車場で待ち合わせて良い?」
「えっ」
そこで修平のスマホが着信音を響かせ、運悪くタイムアウト。スマホを一瞥して電話に出ないあたり、どうやら秘書さんからの呼び出しのようだ。
お決まりのように素早く画面をタップして、再び機器をスーツの内ポケットへと沈めてしまった。
「楽しみにしてて?」
ダークグレイの瞳で宥めるように言う彼に、「…うん」と素直に頷いてしまうのは惚れた弱みだ。
釈然としないでいる私に彼はまた綺麗な微笑を見せ、軽く手を上げたのち颯爽と去ってしまう。
ふわり、と感じた残り香さえ名残惜しい。シン、と静まり返った空気すら一抹の寂しさを覚えるほどに。
でも、すぐに頭を切り替えた。本当は抱き締めて欲しかったという邪な感情は封じ、彼とは反対方向にヒール音を鳴らして進んで行く。
今この時を必死に生きているから、今すべきことに精一杯取り組む。大好きな彼の隣を自信を持って歩んでいけるように、大好きな仕事への努力は惜しまない。
そんな環境の中で彼がくれる甘いひと時は、どうやらちょっと疲れた私の力を最大限に引き出してくれる最高のスパイスみたいね……。