エリートなあなたとの密約


気持ちに誠実であるためには、目の前の仕事に真摯に取り組むことの大切さを教わった。

私が話し終えるまで静かに聞いていた彼女は、そこで大きく頭を下げてこう言った。


「……すみません。さっきは失礼な態度を取って、」

なかなか頭を上げようとしない彼女の肩をポンポン、と優しく叩いて促しながら返す。


「ううん、私の方が今まで無神経だったよね。ごめ」

「言わないで下さい!」

そこでガバっと顔を上げた彼女は、強い口調で私の謝罪を遮ってしまう。

「謝る必要はないです。私だって、この職場も吉川さんも好きです。
今日は本当に申し訳ありませんでした」

正直なところ、顔を合わせた時は話すら聞いて貰えないと感じたから。

思いがけず嬉しい言葉を貰えて、じんわり心が温かくなる。同時に、そんな浅慮さを省みた。


「それに、私あんなことじゃ諦めません!——負けませんから!」

誤解が解けたと思ったのも束の間。対抗意識を燃やすひと言が放たれる。


これで一旦、課内の平穏は取り戻せそうだし、……あとの事情は松岡さんに委ねてしまおう。


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