エリートなあなたとの密約
その後は連絡を取りたくても叶わず。私のほうも会議の延長が響いた分の遅れを取り戻すべく、バタバタと動いていたのだ。
ハッと気づいた頃には、約束の時間。窓の向こうもすっかり夕暮れの色に染まっていた。
慌てて試作部の更衣室へ向かい、ジャケットのボタンをそそくさと外して服を着替えていく。
身に纏ったのはオールドイングランドのペイズリー柄のシルク地ワンピース。スカート部分がプリーツタイプで、淡い模様にミントカラーが映えるデザイン。
服の邪魔にならないよう、アクセサリーはシンプルに、ティファニーのプラチナのヴィクトリア・ダイアモンド・ピアスのみ。
これは修平からプレゼントされたもので、普段は失くさないようにつけないけれど今日は特別に。足元はいつも通り、フェラガモの黒パンプスで歩き易さも重視した。
肌疲れはパール入りプレストパウダーでカバーし、唇はピンクベージュの口紅をつけて準備完了。
最後に全身を一瞥し、会議のための固い印象を与えるスーツよりも良かったはずと自らに言い聞かせた。
こうして荷物とともに更衣室を出ると、再び試作部のドアを解錠する。そのまま足早に最奥を目指して行く。
そして構造課にほど近い一席のデスクへ向かい、正面に立つ。その瞬間、目ざとい人物は、ニヤリと口角を上げた。
「いつも以上に可愛いねぇ。
なになにデート?お兄ちゃん泣いちゃう」