エリートなあなたとの密約
檜の梁にかけられている、“万朶(ばんだ)の間”という表札に目が止まる。
最も奥に位置する此処が、本日私たちが通される部屋のようだ。
すると女将さんは膝をつき、綺麗な所作で扉向こうへ「お連れさまがお見えですよ」と声を掛けた。
「はい、どうぞ」
涼やかな男性の声が返ってきたところで、彼女は襖に手を掛けてスッと戸を開く。
その扉の向こうは畳敷きの和室となっていた。四席座れる室内で待ち構えていた人々に、私は目を見開いて叫んだ。
「た、高階専務と怜葉ちゃん!?」
これは仕事だと意気込んでいた分、高階ご夫妻との対面に虚を衝かれて立ち尽くす。
「こんばんは」
「真帆さんと修お兄ちゃん、こんばんは」
高階専務に続いた怜葉ちゃんの言葉で、隣の修平を見上げる。そんな私と視線が合うと、彼がフッと一笑した。
その顔は、“ね?分かった?”と言いたげで。私もつられるように、表情を崩してしまう。
そこで「仲がよろしいですね」と落ち着いた声色が聞こえて、ハッと我に返った私は正面へ向き直る。
案の定、万朶の間にいるふたりは楽しそうな表情をしているので、かぁっと頬に朱が走った。
そして、脳裏を過ったのは昔のこと。——もしかして、これって修平仕掛けのサプライズなの……?と。