エリートなあなたとの密約
高階専務の落ち着き払ったひと声に恥ずかしさを覚えていると、その隣の怜葉ちゃんが彼を見て呟く。
「へー、彗星もぞっこんって使うのね」
「俺は貴女にぞっこんですのでご安心を」
「いや、便乗しなくていいです」
「サプライズも倣いますが?」
「私に宣言した時点で倣えていませんよ」
淡々として続くやり取りを眺めていたものの、その面白さについ私たちは噴き出してしまった。
表面上は平行線を辿っているけれど、高階専務はさらに怜葉ちゃんの本音を引き出そうとする。
そうして彼女の機微を感じるごとに彼の表情も変化し、ふたりでそっと笑う。どこか駆け引きし合う、彼らの関係は素敵だと感じたの。
高階専務は巷では孤高の貴公子とも称されているけれど、そんな噂もこの場面を垣間見ればすぐに消えるだろう。
彼の最も大切な人——怜葉ちゃんへ向ける眼差しの優しさは、こちらにも伝わってきたから。
「修お兄ちゃん、ほんと良かったね」
すると舌戦から先に上がった怜葉ちゃんが真っ黒な瞳で修平を見据え、柔らかな顔のままにそう口にした。
そのひと言に、「ときちゃんもね」も笑いながら短く返している。……やっぱり、幼馴染みって羨ましいな。