エリートなあなたとの密約
暫く談笑をしていると、ドドドド!と料亭に似つかわしくない騒々しい音が戸の向こうから漏れ聞こえてきた。
全員が戸のほうへ視線を向けたその瞬間。スパーン!と、小気味よい音とともに襖が全開になった。
「ひめぇええええ!」
襖を開けたのは板前さんと思しき、体格の良い男性。その人は絶叫しながら入り口そばの怜葉ちゃんめがけて一直線。
そのまま豪快に抱きつこうとした刹那、隣からスッと高階専務が彼女を引き寄せて対峙する。
般若のような顔に変わった男性は、高階専務を容赦なく睨みつけながら声を荒げた。
「すいせぇええええ!」
「先輩、職場放棄されてもよろしいのでしょうか?」
「大事な大事な大事な“姫”と仕事を天秤にかけるわけがないっ!」
「……姫じゃないし。まーくん、今すぐ病院へ行って診察受けて来て」
「じゃあ、姫がつきっきりで看病して?」
どうやらおふたりのお知り合いらしい。姫こと、怜葉ちゃんの冷ややかな視線と発言にもへこたれない彼がさらに続ける。
「知り合いにカウンセラーがいるので紹介しますよ?」
それをバッサリ断ち切るのが、今もなお呆れた面持ちの怜葉ちゃんを引き寄せて離さない専務だ。