エリートなあなたとの密約


修平をちらりと窺うと、どうやら笑いを堪えているらしい。口元に大きな手を当てているけれど、その肩が揺れていた。


「オマエが俺の姫をーーー!」

「ええ、怜葉さんは俺の大切な婚約者です。それが何か?」

涼やかな視線と笑みをたたえ、こともなげに返す専務。……ええと、板さんのほうが先輩だよね?

「まーくん、老舗に悪評が立つ前に板場に戻って。そのうちご飯行ってあげるから」

「よし、約束だぞ?そのうちって、いつがいい?」

嘆息した怜葉ちゃんが仲裁に入ると、まーくんと呼ばれた男性は一気に開花したような笑顔に変わった。

「“そのうち”連絡する気が削がれる前に、早く戻って?」

「くっ、」

「さっきから、修お兄ちゃんは笑い過ぎ。
真帆さん、うるさい上に驚かせてばかりですみません。これは騒音だと思って下さいね」

「え!?き、気にしないで?」

何と反応すべきか、こういう時は困るもので。へらりと笑って返すのがベターだろう。

修平なんてその隣で、とうとう遠慮なく笑い始めているし。冷静沈着といわれているけれど、実際の彼は笑い上戸だと私は思っている。

ちなみに、男性はいまだに怜葉ちゃんに約束を取り付けようと必死。……この不思議な状況を呑み込むために、説明を求めても良いのかな?


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