エリートなあなたとの密約
その佇まいは凛としており、私は小さく首を振って微笑むと口を開いた。
「パワフルな方ですね」
「まあ!黒岩さま、申し訳ありません。あんなのに気を使わなくて構いませんから。
本当にバカ息子なんですよ。ねえ怜葉ちゃん?」
遠慮がちな発言を聞いた途端、先ほどの表情に逆戻りした女将さんが怜葉ちゃんに目を向ける。
すぐあとに続けば、「まーくんは気を使っても誤魔化しがきかないよね」と頷く怜葉ちゃん。
「でしょう?」と言って私に目を配る女将さんに、もはや苦笑を浮かべるばかりだ。
「実は、怜葉ちゃんのお兄ちゃんと息子が幼馴染みなんですよ。
それで昔から、怜葉ちゃんのことを猫可愛がりしていましてね。母親の私から見ても、それはもう気持ち悪いほどで。
でも、怜葉ちゃんが嫌がらずに上手くあしらってくれるから許されるのよねぇ。——あんな変態でも」
ふふふ、と最後に笑った女将さん。息子をフォローしているようで貶しているけれど……。
反応に困っている私に、向かいの怜葉ちゃんがくすくす綺麗に笑ったあとでこう言った。
「確かにまーくんは変人ですけど、いつでも心配してくれる優しい人なんです。
もし宜しければ、真帆さんも気味悪がらずに程よく付き合ってあげて下さい。
あ、キショいと思った時は容赦なく口撃して下さいね?周りも加勢しますので」
日本人形のような顔立ちをした彼女からは、およそかけ離れた辛辣な物言いだ。
けれど、それには憎悪が全く感じられず、むしろ親しみが感じられるもので。
自然に「素敵な方なんですね」のひと言がするっと出ていた。……そんな私の身近にも、似た人がいるなと感じながら。
「それはちょっと妬けるな」
その瞬間、隣から聞こえたバリトンの声色に視線を移す。そこでこちらを注視する、ダークグレイの瞳と目が合った。