エリートなあなたとの密約
その視線にはほんのりと不満の色が窺えたので、じんわりと心が温まっていく。……こんな小さな嫉妬さえ修平バカには嬉しいものだと、本人は分かっているのかな?
言葉なく見つめ合っていると、前方から大きな手が伸びてきてそのまま軽く頭を撫でられる。
ハーフアップにしている髪が乱れないその絶妙な手加減に、自然と頬も緩んでしまう。
「修お兄ちゃん、本当に真帆さんにぞっこんだね」
このひと言に虚を衝かれた私は、慌てて前方へと視線を戻した。
すると、楽しそうに窺う双眸がもうひとつ増えていたので羞恥心が一層高まる。
「怜葉さん、羨ましいですか?」
「あ、倣わなくて結構ですから」
天使の輪が輝く黒髪へ触れかけていた高階専務。その手は怜葉ちゃんの淡々とした返しに阻まれ、宙を彷徨っている。
孤高の貴公子と呼ばれる高階さんの真っ黒な瞳が残念そうに見えるのは気のせいではないだろう。
「くっ、」
「修平っ!」
やり取りを共に見守っていた彼が、またもや堪えきれずに肩を震わせているのでジト目で窘めた。
「黒岩さんから学ぼうとしただけですが」
「それは真帆さんにも失礼ですが?修お兄ちゃんの二番煎じはダメですよ」
納得のいかない声音に対し、ぴしゃりと言い放った怜葉ちゃん。どうやらこの議論はそこで落ち着いたらしい。
こうして“まーくん”に続き、女将さんが三つ指を立ててお辞儀をすると、部屋をあとにしていった。