禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「ぐっ…がぁあっ…!腕がっ…俺の腕がぁっ!!」
ボタボタと床を血で汚しながらヨークが苦悶と怒りを滲ませた顔で無くなった左
腕を押さえている。
「ぶっ殺す…!!絶対にてめえは許さねえ!!」
血を流しながらそれでも立ち上がり右手で剣を握りなおしたヨークのただならぬ殺気に、リヲも剣を構え攻めこむ体勢を見せる。
…こいつ、腕を失くしてもまだ戦うつもりか…
その狂気とも言える闘志に、リヲのこめかみに冷たい汗が走る。
しかし
「ヨーク様!城にいた近衛兵達がこちらに向かっています!手練れが多く…黒龍団が押されています!」
駆け込んできたギルブルクの兵士の報告にヨークの殺気が弱まった。
黒龍団の奇襲に気付いたミシュラが城に待機していた第一騎士団に聖堂を守れと召集をかけたのだ。
警備の薄い聖堂への奇襲で油断していた黒龍団に予想よりずっと早かった第一騎士団の追撃は大きな痛手となった。
しかも将軍が致命的な手傷を負っている今。この戦況がどうなるかは火を見るより明らかだった。
「…撤退だ。ただしその旗だけは死んでも持ち帰れ」
この上ない屈辱に、握った剣を震わせながらヨークは低く呻くようにそう指示した。