禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~


「聖旗…聖旗ねえ…」

「何か分かりませんか?」

昼間の戦闘の疲れを癒す間もなく、アンとミシュラは城の考古学者の元を訪ねて来ていた。

処狭しと文献の積まれるカビ臭い部屋で、眉間に皺を寄せた老人の学者が唸って考え込む。

「聖旗に関する文献は本当に少なくてのう…儂等でさえ知ってるのはせいぜい叙任の儀式ぐらいじゃ」

老人の言葉に気落ちした表情を浮かべアンが肩を落とす。

「じゃあ魔法についてはどうですか?古には魔法が使える者が居たと聞きます。それと聖旗は何か関係が?」

ミシュラが尋ねた質問にも老人は首を横に振った。

「魔法なんてそれこそ古代の話だ。もはや伝説上のものだと我々学者は認識している」

「けど…私、見たんです!」

老人の言葉に今度はアンが身を乗り出して訴えた。

「あの男の…ヨーク将軍の左手から黒い炎が発せられるところを。彼もそれを魔法だと言っていました」

「僕はそれを見ていないけど、でも確かに聖堂にあった死体は普通の焼死体とは違って均一に炭化していた。これは短時間で人が成せる技じゃない」

アンとミシュラの見解に老人は白い髭を捻りながら考え込むばかりだった。


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