禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「聖旗に聖女に魔法かぁ…」
燭台の蝋燭が照らす城の廊下を二人は足音を響かせながら歩いた。
「ギルブルクの奴ら何を企んでるんだろうね。女王様には見向きもせず聖旗を奪いに来ただなんて」
「やっぱりミシュラもそう思う?ギルブルクの侵略はデュークワーズの制圧なんかじゃなく、もっと他の目的があるって」
「そりゃそうさ。ギルブルクの奴、今までこちらが何度むこうに有利な和平の申し入れをしても一切聞く耳持たなかったんだ。てっきりデュークワーズの完全制圧が目的なんだと思ってたよ。
なのにいざ戦争が始まってみたら制圧どころか旗を盗みに来ただけなんて…酔狂にしては悪ふざけが過ぎるね」
腕を組みながらミシュラはウムムと唸って考え込む。
「…ねえミシュラ。私、嫌な予感がするの」
唸るミシュラの隣でアンが金色の髪を揺らしながらまっすぐ視線を上げて言った。
「この国は歴史のわりにそれに伴う資料が少なすぎるわ。…まるで、誰かが隠して消してしまったみたい」
「…アン…」
「ギルブルクが手に入れようとしているのは…もしかしたら、その消さなくちゃいけない何かなんじゃないかしら」
…だとしたら。聖女である自分も歴史が隠そうとしている忌まわしいものかも知れない。
胸に過った予感に、アンはゾクリと身体を震わせ自分を抱きしめた。