禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
アンの言葉にミシュラもまたひとつの仮説が頭に浮かぶ。
ギルブルクは小さな都市国家だ。ここ数十年で急速に成長してきた国でありデュークワーズと対照的に歴史は深くない。
ギルブルクを成長させてきたのは鉱業でも商業でもなく学問だった。
国の中央に大きな沼の位置するギルブルクは、決して何かを発展させるには良い土地とは言い難かったが学問だけはその類いではなかった。
世界中から研究者や学者が集まり、功績を上げた者には国から褒美が出た。研究者らはこぞって功績を上げギルブルクは
あっという間に世界一の『知の国』となった。
知識は金になり商売になる。ギルブルクは知で得た利益で国力を固めみるみる世界有数の都市国家となったのだった。
…つまり。デュークワーズが知らない自身の歴史を、ギルブルクが知っていたとしても不思議はない。
そこに、アンの言う通り『デュークワーズが隠した歴史』があったとしたら…?
仮説と思うにはあまりに的を射てる気がしてミシュラもこっそりと身を震わせた。
不安に険しい表情の崩せないアンを慰めてやりたいとミシュラは思ったが、自分の中にも過った嫌な寒気にそれを出来る余裕はなかった。
……この国が護るべきは、もしかしたらもっと大きくて重大な何かなんじゃないか。
窓から見える星に視線を投げながらミシュラは考えたが、その答えをくれるものはこの国にはどこにもいなかった。