禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
「アン様。ギルブルクの奴らが狙っているのが分かっているのですから、アン様は身を隠すべきではないのでしょうか」
食卓のパンを千切りながらサラが榛色の瞳を不安そうに曇らせて言った。
アンはそんなサラをキョトンと見てスープを掬ったスプーンを止めた。
「やあねえサラ。どこの世界に自国が攻めこまれるのを隠れて見てる騎士団長がいるのよ」
ケラケラと呑気に笑いながらアンはスプーンを口へ運び直した。
「でも…。だったらせめて護衛をいっぱい着けてもらうとか!いくらアン様がお強くったって敵が狙ってる女性を一人で戦わせるなんて有り得ないもの!
そうだわ!リヲ様が適任よ!リヲ様ならきっとこの前みたいにアン様を守って下さるわ!」
名案だとばかりに目を輝かせたサラに、今度はアンが困ったように笑う。
「サラってば。そんなに私が頼り無い?
それに護衛をどうするかは私が決められる事じゃないわ。今、連日軍議が行われてるから、きっと私の扱いはそこで決まるわ」
そんな。そんな。だってその軍議は録に戦況も知らず安全な所に隠れてた肩書きばっかり偉い諸侯が決めてるんでしょう?そんな人達がアン様を守って下さるのかしら。
そう訴えたい気持ちを、サラはゴクリと飲み込んだ。
アンに文句を言ってもしょうがない。自分が喚いたところできっと彼女を不安にさせる事はあっても安心させる事なんて出来やしないのだ。
ああ神様。どうかこの美しく健気な少女を御守りください。
サラがコッソリと目の前のアンの無事を祈ったところで、コンコンと部屋のドアがノックされた。
「聖旗守護団長。軍議の報告がある」
そう言って扉を開いたのはリヲだった。
アンはコクリと頷くと席を立ち
「ごめんねサラ、私の食事はもう片しちゃっていいわ」
と言い残しリヲの後をついて部屋から出ていった。
残されたサラはパンを握りしめ、軍議の報告が良いものであるのを願うばかりであった。